鮮やかな色彩と伸びやかな線。ひとつひとつ異なる表情の中に、あたたかさと優しさを感じるティミーさんの器。
ハンガリーから益子へ。土や色と向き合いながら、日々の暮らしの中で器を作るティミーさんに、作品に込める思いや、益子で過ごす時間についてお話を伺いました。
作り手の声:ティミーラントス
益子の土と、ハンガリーの記憶から生まれる器
鮮やかな色彩と伸びやかな線。ひとつひとつ異なる表情の中に、あたたかさと優しさを感じるティミーさんの器。
ハンガリーから益子へ。土や色と向き合いながら、日々の暮らしの中で器を作るティミーさんに、作品に込める思いや、益子で過ごす時間についてお話を伺いました。
――ティミーさんは益子に来て10年になるそうですが、それ以前は福島にいらしたんですよね。
ティミー:はい。2015年の3月から5月にかけて、福島県三春町の日下部正和先生のもとで修行していました。その後はいろいろな場所を行き来して、2015年の4月、春の陶器市の時に初めて益子を訪れました。
――独立して、ご自身の窯を持って作陶するようになってからは3年ほどになりますが、作品には主にどんな土を使っていますか?
ティミー:主に益子の赤土を使っています。ほかに半磁器も使いますが、全体の1割ほどです。半磁器はおそらく信楽の土で、箸置きなどに使っています。
――釉薬はご自身で調合されているんですか?
ティミー:はい。自分で作っているのは、伝統的な益子の釉薬である並白(なみしろ)と藁灰(わらばい)です。
藁灰は、参考館の方で田んぼをやっている方から藁を買って、自分で燃やして灰にしています。藁灰は結構好きですね。あとは益子の白泥も使っています。赤土に白泥を塗って、その上に柄や絵を描いたりしています。
――ティミーさんの作品は色彩が鮮やかで、きれいな色をよく使われています。その中でも特にピンクが印象的ですが、この色もご自身で生み出したのでしょうか。
ティミー:はい。これは灰から生まれたピンクなんです。このストックがなくなったら、もう同じ色はできないかもしれません。
――ひとつの色をつくることも、容易ではないのですね。成形は基本的にろくろですか?
ティミー:ろくろと手びねりです。ものによっては、自分で型をつくることもあります。
――作品をつくる上で、信念やこだわりはありますか?
ティミー:すべて一点物にすることです。同じシリーズの同じ器でも、一つひとつが特別になるように。同じものは一つとしてなくて、形も線も全部違います。
――それが、手で作ることの魅力でもありますよね。実際に作品を手に取るお客様も、迷いながら楽しそうに選んでいる印象があります。
ティミー:あとは、形と色の組み合わせをすごく気にしています。最初に形をつくり始める時から、この形にはどんな釉薬、どんな色を合わせるか、全部決まっています。例えば藁灰の色の出方や、粘土と釉薬の組み合わせをとても意識しています。
――土と釉薬にも相性があるんですね。
ティミー:はい。ここ何年かずっと益子焼をつくってきて、いろいろな釉薬をテストする中で分かってきました。たくさん失敗もしました。その中で自分で作品を焼いて、実際に使ってみて、これでいいのか、否かを判断しています。
――その中でも、ティミーさんにしか出せない器の魅力を挙げるとしたら、どんなところでしょう。
ティミー:お客さんがよく言ってくれるのは、作品のあたたかさや優しさです。ピンク色や、柔らかな感じですね。
――作品にはティミーさんのお人柄や、あたたかさが表れているように感じます。ハンガリーという故郷への思いや、幼い頃の記憶、そこで見てきた風景なども作品の中に込められているからでしょうね。
ティミー:ありがとうございます。自分では、もう少しシンプルな作風にも憧れるんですけど、作れないんです。どうしても柄を入れたくなってしまって(笑)。
――ティミーさんの作品には、日本の作家さんとはまた違う、独特の世界観があります。スターネットの中でもひときわ印象に残る作品だと感じます。それがティミーさんらしさなので、これからもぜひ突き詰めていってください。
ーー普段はどのように過ごされていますか? 1日のスケジュールを教えてください。
ティミー:朝は6時半から7時半くらいの間に起きます。それからコーヒーを飲んで、最近はオートミールにヨーグルトとバナナを入れて食べています。
仕事は9時から17時までと決めて、できるだけ守るようにしています。でも忙しい時は、夜の19時半や20時頃まで仕事をすることもあります。忙しくない時は、夕方18時くらいに近くの田んぼへ散歩に行くのが日課です。夏は庭の草刈りをすることもありますね。
――工房とご自宅の周りの景色がとても美しくて、お散歩するのが気持ちよさそうですね。では、1年を通しての過ごし方についても聞かせてください。
ティミー:毎年1回、クリスマスシーズンには必ずハンガリーに帰ります。その後1月から春にかけて作陶して、4〜5月の陶器市やクラフト展に向けて準備します。夏は秋の陶器市や個展に向けて作品を作ります。
季節によって、作品の色やラインナップにも変化をつけています。秋ならブラウンなどの暖色を使ったり、スープカップを多く作ったりしますね。
――1年の大半を作陶に費やしている中で、ハンガリーで過ごす冬休みは良いリフレッシュになりそうですね。ほかに益子でリフレッシュする時間やお気に入りの場所はありますか?
ティミー:古い家に住んでいた頃によく行っていた「須田ヶ池」です。スターネットのすぐ近くで、よく散歩に来ていました。
温泉も大好きで、「井頭温泉」が好きです。カフェでは「雨巻茶屋」のピザがおいしくて、お気に入りです。
ーー益子やスターネットでの、印象に残っている思い出はありますか?
ティミー:初めて益子のあじさい祭りに行った時、とても不思議な気持ちになったことを覚えています。提灯の灯りと咲き誇るあじさいに囲まれて、まるで別世界にいるような感覚でした。
以前は、すごく疲れたときに時々スターネットに立ち寄って、ガトーショコラを食べたり、ハーブティーを飲んだりしていました。おいしいお菓子とお茶、そして何よりスターネットというあの場所の雰囲気に元気をもらっていたように思います。
――ありがとうございます。益子の自然と、ハンガリーの自然は似ていますか?
ティミー:益子は山と森、そして霧がありますね。霧の少し不思議でミステリアスな、静かな感じがすごく好きです。家の近くにはホタルもいます。
ハンガリーは真っ平らで山がないんですが、私の町には川と自然の温泉があります。子どもの頃からよく川を歩いたり、泳いだりしていて、昔から自然が大好きです。
――ティミーさん自身は、暮らしの中で器をどのように使っていますか?
ティミー:スープやサラダ、パスタなど、何にでも使える少し深めの鉢をよく使っています。自分の作品では、その鉢しか使わないんです。
朝ヨーグルトを食べる時は、及川静香さんのご飯茶碗を使っています。毎日自分の作品ばかり触っているので、ご飯を食べる時は、他の作家さんのエネルギーをもらって吸収しています。
――逆に、お客様の器の使い方を参考にすることもありますか?
ティミー:陶器市でお客さんと話していると、面白い使い方をたくさん教えてもらいます。
例えば、私がアクセサリー置きとしてつくった蓋物に、塩や砂糖を入れて台所で使っていたり、お皿を植木鉢に使っていたり。そういう使い方を知ると、すごく勉強になります。
――そうやってお客様の声を直接聞けるのは陶器市ならではの良さですね。では、影響を受けた作家さんはいますか?
ティミー:小野正穂さんの作品はとてもリスペクトしています。あとは、先生である日下部正和さんです。
私がお地蔵さんのシリーズをつくり始めたのも、日下部先生の影響です。「小さい彫刻シリーズにしたらどうか」とアドバイスをいただきました。
――そうだったんですね。
最後に、作品を通して伝えたい思いを聞かせてください。
ティミー:私は、お客さんと直接お話しするのがあまり上手ではないので、気持ちを全部作品に込めて、器を通してつながれたらと思っています。
家族や大事な人とご飯を食べる時に、私の作品を使ってくれたらすごく嬉しいです。私が作ったものをお客さんが毎日使ってくれることで、友達や家族のようにつながれる。そのことに幸せを感じます。
――器を通してティミーさんの思いが人から人へつながっていくんですね。本日はありがとうございました。
Timi Lantos(ティミー・ラントス)
ハンガリー出身。14歳から工芸・美術の専門学校で様々なジャンルの制作を学び、16歳から陶芸を専攻。
ブタペストの大学と大学院で磁器制作や彫刻を学ぶ。
2016年来日。益子に暮らし始め、益子の土を使い、陶器づくりを始める。
現在、starnetでの常設取り扱いのほか、国内外での展覧会に参加。